公共施設等総合管理計画の策定と改訂ガイド|総務省通知対応と実務のポイント
監修者
黒川 雅康
総務省 経営・財務マネジメント 強化事業アドバイザー
株式会社パブリック・マネジメント・コンサルティング/上席執行役員 営業部長
2008年当社入社。地方公会計制度導入、公会計システム開発・運用に携わり、
以降、自治体における財務書類作成、公共施設マネジメント等、地域・自治体の課題解決に向けた様々な支援を行う。
公共施設マネジメントの要となる公共施設等総合管理計画。
平成26年の総務大臣通知以降、ほぼすべての自治体で策定が完了していますが、現在はその内容の改訂と実効性が問われる段階に入っています。
特に、令和3年から令和5年にかけて矢継ぎ早に出された通知により、個別施設計画との整合性や脱炭素への対応、さらには物価高騰を踏まえたコスト再試算など、盛り込むべき要件が大幅に増えています。
本記事では、総務省通知の変遷を整理した上で、計画改訂において必ず押さえておくべき実務上の重要ポイントを解説します。
1 公共施設等総合管理計画とは

公共施設等総合管理計画とは、自治体が保有するすべての公共施設等を総合的かつ計画的に管理するための基本計画のことです。
平成26年4月22日総務大臣通知による要請を受け、全国の自治体で策定が進められました。
策定当初は、自団体が保有する施設の全体像を把握することに主眼が置かれていましたが、現在は計画に基づく具体的なアクションを実行し、その進捗を評価したうえで計画を改訂する段階に移行しています。
また、この計画は公共施設マネジメントにおける最上位のマスタープランとしての位置付けであり、その下層に学校や公営住宅といった施設類型ごとの個別施設計画が存在します。
今回の改訂局面では、この全体計画と個別計画の数字や方針が矛盾なく連動しているかどうかが、実効性を左右する重要な鍵となります。
2 計画策定と改訂に影響を与える総務省通知の変遷

計画の改訂作業を進める上で、避けて通れないのが総務省からの通知への対応です。
本章では、計画に求められる要件がどのように変化してきたか、以下の4つのフェーズに分けて詳細に解説します。
- 平成26年4月通知:全体像の把握と策定要請
- 令和3年1月通知:個別計画との連携と精緻化
- 令和4年4月通知:脱炭素など質の向上
- 令和5年10月通知:物価高騰対応と実行加速
(1)平成26年4月22日通知:策定フェーズ
公共施設マネジメントの出発点となった通知であり、まずは自治体資産の全体像を把握することが最大の目的でした。
当時、多くの自治体では道路は土木課・道路管理課、学校は教育委員会といった縦割り管理が常態化しており、全庁的な施設台帳すら存在していませんでした。
そこで総務省は、すべての公共施設等の現況や将来の見通しを整理し、管理に関する基本的な方針を定めた公共施設等総合管理計画の策定を全自治体に要請しました。
具体的には、保有する施設の総量や老朽化の状況を可視化すること、そして将来の人口推計に基づき、維持管理更新費が将来的にどの程度不足するかを試算することが求められました。
まずは問題を認識し、基本的な方向性を定めるためのフェーズでした。
(2)令和3年1月26日通知:連携・精緻化フェーズ
策定された計画を、より具体的で精度の高いものへ昇華させるための通知です。
計画の実効性を担保するために、現場レベルの実行計画である個別施設計画との連携が必須化されました。
平成26年の段階では全体方針のみが先行して作られましたが、その後策定された学校や道路ごとの個別施設計画と内容を突き合わせると、充当財源や延床面積の削減目標に乖離があるケースが散見されました。
この通知では、個別施設計画の内容を総合管理計画に反映させ、両者の整合性を図ることが強く求められています。
また、新たな記載事項として有形固定資産減価償却率の推移、過去に行った対策の実績や、ユニバーサルデザイン化の推進方針も追加されました。
単に「古い」という現状だけでなく、過去にどのような長寿命化対策を行ったかという履歴を管理し、計画の精度を高める狙いがあります。
(3)令和4年4月1日通知:質の向上フェーズ
世界的な社会課題に対応するため、計画の質の向上を求めた通知です。
最大のポイントは、脱炭素化の推進方針の記載が必須化された点です。
政府の地球温暖化対策計画に即し、公共施設においても省エネ改修や再生可能エネルギー導入を進める必要があります。
これを受け、総合管理計画においても、改修や更新の際にどのように環境性能を高めるかという具体的な方針記載が求められるようになりました。
さらに、コスト試算についてもより詳細な内容が求められています。
施設をそのまま建替えた場合の単純な更新費用だけでなく、長寿命化対策や集約化を行った場合のコスト縮減効果も見込んだ推計を行うなど、充当可能な財源見通しの精度向上が必要となりました。
(4)令和5年10月10日通知:改訂の推進フェーズ
公共施設等総合管理計画の改訂を推進するため、「公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針」について必要な見直しを行った通知です。
具体的には、留意事項における「数値目標の設定とPDCAサイクルの確立」は、記載すべき事項における「数値目標」「PDCAサイクルの推進方針」と重複することから、記載内容がスリム化され、地方自治体の事務量軽減が図られました(数値目標、PDCAサイクルの推進方針は、計画に当然記載すべきものとされています)。
また、直近の経済情勢の変化に対応するため、建設資材価格や人件費の高騰、いわゆるインフレへの対応や、計画の実効性の維持が主眼となっています。
数年前に策定した計画時点の単価では、現在の実勢価格と大きく乖離しており、将来の更新費用が過小評価されているという問題が生じています。
総務省は、直近の建設工事費デフレーター等を活用してコストを再試算し、財源見通しを見直すよう求めています。
また、コスト増を抑制するためには現状維持では不可能であるとして、計画に基づく統廃合や集約化の実行スピードを上げることも併せて求められています。
「検討中」で止まっている案件を、実行に移すことが迫られているフェーズといえます。
通知への対応で生じる実務的な壁については、以下の記事で解説しています。
3 計画改訂で必ず盛り込むべき重要ポイント

通知の変遷を踏まえ、実際に計画を改訂する際に記述すべき具体的なポイントを解説します。
本章では、特に重要度の高い以下の3点について整理します。
- 個別施設計画との連携
- 新たに追加された必須項目の記載内容
- 長寿命化対策効果と減価償却率の活用
(1)個別施設計画との連携の徹底
総合管理計画における全体枠と、個別施設計画における積み上げデータの乖離を埋める作業が不可欠です。
維持管理・更新等に係る中長期的な経費の見込みについて、個別施設計画で算出された精緻なデータを総合管理計画に反映させます。
例えば、総合管理計画で「今後10年で更新費を平均化する」としていても、個別施設計画の積み上げ結果が特定の年度に突出しているようでは計画として機能しません。
両者の数字を突合し、不整合があれば修正を行うプロセスを記述する必要があります。
(2)追加必須項目の具体的記載内容
令和3年および令和4年の通知で追加された項目について、具体的な記載方針を定めます。
ユニバーサルデザイン化
「ユニバーサルデザイン2020行動計画」や「バリアフリー法」の考え方を踏まえ、施設改修時に誰もが使いやすい環境をどう整備するかという方針を記載します。
単にスロープをつけるといった物理的な対応だけでなく、心のバリアフリーを含むソフト面での対応や、既存不適格施設を更新時にどう解消していくかといった、中長期的な視点での方針が求められます。
脱炭素化
自治体が策定する地球温暖化対策実行計画の事務事業編と整合性を図り、公共施設からのCO2排出削減に向けた具体的な取り組みを記載します。
具体的には、新築・改築時のZEB化やZEH化の推進、既存施設における照明のLED化、太陽光発電設備の導入促進などが挙げられます。
これらは単なる努力目標ではなく、GX(グリーントランスフォーメーション)の一環として計画に位置付ける必要があります。
過去の対策実績
過去にどのような対策を講じてきたかという履歴を記載します。
具体的には、過去に行った長寿命化対策や大規模改修、更新の実績を整理します。
これにより、適切なメンテナンスサイクルが回っているかを確認するとともに、将来の更新時期の予測精度を高める基礎資料とします。
(3)長寿命化対策と維持管理・更新等経費試算の厳格化
将来コストの推計において、単なる建替え費用の総額だけでなく、対策による圧縮効果を明示します。
具体的には、「施設をそのまま更新した場合の推計額」と「長寿命化や統廃合を行った場合の推計額」を比較し、どれだけのコスト削減が見込まれるかを算出します。
また、30年以上の長期的な期間について、中規模改修・大規模改修の保全周期も踏まえて記載することが望ましいとされています。
4 最新トレンド 物価高騰への対応

今回の改訂で最も頭を悩ませるのが、物価高騰への対応です。
本章では、どのようにコスト試算を修正すべきか、以下の2点から解説します。
- 過去の単価設定の見直し
- 財政シミュレーションの修正
(1)過去の単価設定はもう使えない
数年前に作成した計画で使用している平米単価と、現在の実勢価格には大きな乖離があるため、そのまま使うことはできません。
現在では、直近の建築費指数や建設工事費デフレーター等を活用し、実勢価格に基づいた再試算を行うことが求められています。
例えば、5年前に「平米30万円」で計算していた改築費用が、現在は「平米50万円」を超えているケースも珍しくありません。
この補正を行わなければ、維持管理・更新等に係る中長期的な経費の見込みが現実離れしたものになり、計画自体の信頼性が失われてしまいます。
(2)財政シミュレーション(充当可能財源の見通し)の修正
コスト増により、従来の充当可能な財源見通しが破綻している可能性が高いため、財源見通し全体の見直しが必要です。
更新費用が増加すれば、当然ながら充当すべき財源も不足します。
公共施設整備基金への積立額を増やす必要があるかなど、歳入と歳出の両面からシミュレーションをやり直す必要があります。
5 実効性のある計画運用のポイント

立派な計画書を作っても、神棚に飾られたまま、実行されなければ意味がありません。
本章では、計画を実行力のあるものにするための運用体制について、以下の2点から解説します。
- 全庁的な推進体制の構築
- PDCAサイクルの確立と公表
(1)全庁的な推進体制の構築
施設管理を所管課任せにせず、庁内横断の検討組織が強力な推進役となることが重要です。
各所管課は現状維持を望む傾向にありますが、全体最適を図るには、横断的な発想を持ったトップダウンの判断が必要だからです。
その際の共通言語となるのが、公共施設マネジメント推進を前提とした、地方公会計(固定資産台帳)の活用であり、そのデータに基づく意思決定です。
施設の資産価値やコストを可視化することで、客観的な基準での意思決定が可能になります。
(2)PDCAサイクルの確立と公表
計画は作って終わりではなく、点検・診断の結果をフィードバックし、常に見直し続けるプロセスが必要です。
また、計画の進捗状況、特に統廃合による成果やコスト削減額については、議会や住民に対して分かりやすく公表することが求められます。
成果を可視化することで、次の改革への理解や協力を得やすくなるというメリットもあります。
まとめ
公共施設等総合管理計画の改訂は、単なる数値の書き換え作業ではありません。
物価高騰や脱炭素といった社会環境の変化に適応し、持続可能な自治体経営を実現するための羅針盤を再設定する重要なプロセスです。
精緻なコスト試算や公会計データとの連携など、専門的な知見が必要な場面も多々あります。
自庁だけで抱え込まず、外部の専門家やシステムを有効活用しながら、実効性の高い計画づくりを進めていきましょう。
監修者
黒川 雅康
総務省 経営・財務マネジメント 強化事業アドバイザー
株式会社パブリック・マネジメント・コンサルティング/上席執行役員 営業部長
2008年当社入社。地方公会計制度導入、公会計システム開発・運用に携わり、
以降、自治体における財務書類作成、公共施設マネジメント等、地域・自治体の課題解決に向けた様々な支援を行う。
