公共施設マネジメントの課題とは?実行を阻む3つの壁と解決策
監修者
黒川 雅康
総務省 経営・財務マネジメント 強化事業アドバイザー
株式会社パブリック・マネジメント・コンサルティング/上席執行役員 営業部長
2008年当社入社。地方公会計制度導入、公会計システム開発・運用に携わり、
以降、自治体における財務書類作成、公共施設マネジメント等、地域・自治体の課題解決に向けた様々な支援を行う。
多くの自治体で公共施設等総合管理計画の策定が完了していますが、いざ計画を実行に移そうとすると、現場では様々な問題が発生し、思うように進まないケースが少なくありません。
総務省からの相次ぐ通知(令和3年1月〜令和5年10月)への対応や、昨今の経済情勢の変化により、当初の計画と現実の間に乖離が生まれていることが主な要因です。
本記事では、公共施設マネジメントの実行フェーズで多くの担当者が直面する財源、組織、合意形成という3つの課題について整理し、それらを乗り越えるための具体的なアプローチを解説します。
公共施設マネジメントにおける3つの壁とは

多くの自治体が計画策定後に直面するのは、書かれた内容を具現化する際の実務的な難しさです。
特に、近年の総務省通知への対応プロセスで浮き彫りになった課題は、大きく以下の3つに分類されます。
- 財源の壁:物価高騰により、試算した財源の見込みが全く足りない
- 組織・データの壁:庁内の縦割り行政により、情報が分断されている
- 実行・合意の壁:住民や議会への説明が難航し、決定できない
これらの課題は複雑に絡み合っており、従来の経験則や単独部署の努力だけでは解決が困難な状況にあります。次章以降で、それぞれの壁の詳細と対応策を見ていきます。
第一の壁:物価高騰による計画の破綻
第一の壁は、急激な経済情勢の変化による「財源の壁」です。
本章では、以下の2点について解説します。
- 建設資材価格・人件費の高騰による単価の乖離
- 将来コストの見通しの甘さと再試算の必要性
(1)建設資材価格・人件費の高騰
数年前に策定した計画時の単価と現在の実勢価格が大きく乖離しており、計画通りの事業執行が困難になっています。
背景には、コロナ禍以降の世界的なインフレや物流の混乱、さらに慢性的な建設業の人手不足により、国内の建設資材価格や労務単価が高騰し続けていることがあります。
数年前に「1億円で改修できる」と見込んでいた事業が、蓋を開けてみれば1.5倍や2倍のコストがかかるといったケースが珍しくありません。
その結果、確保していた予算内で入札事業者が決まらない入札不調が頻発したり、予算超過を理由に改修工事そのものが見送られたりする事態が起きています。
過去の単価設定のままでは、事業を進めること自体が物理的に難しくなっており、計画の実効性が失われつつあります。
(2)将来コストの見通しの甘さ
人口減少やコスト高を十分に考慮していない試算により、将来負担額が過小評価されている恐れがあります。
多くの計画では、将来の物価上昇率を低く見積もっていたり、人口減少による一人あたりの負担増を厳しめに見積もっていなかったりするためです。
また、施設の劣化スピードを楽観的に捉えすぎている場合、想定よりも早い時期に大規模修繕が必要となり、充当可能な財源見通しが狂う原因となります。
直近の実勢価格を用いたコストの再試算を行うことは待ったなしの状況です。
単に数字を置き換えるだけでなく、起債(借金)の発行可能額や基金(貯金)の取り崩し計画といった、充当可能な財源見通しそのものを根本から練り直すことが急務となっています。
具体的な改訂手順や再試算のポイントについては、以下の記事で解説しています。
第二の壁:縦割り行政とデータの分断
第二の壁は、庁内の連携不足に起因する「組織とデータの壁」です。
本章では、令和3年1月の通知で特に改善が求められた以下の2点について解説します。
- 総合管理計画と個別施設計画の整合性が取れていない問題
- 固定資産台帳(公会計)と施設情報の連携不足
(1)総合管理計画と個別施設計画の不整合
個別施設計画が部署ごとにバラバラの基準で作られているため、全庁的な優先順位がつけられないという課題があります。
これは、総務・企画部門がトップダウンで定める総合管理計画(全体方針)と、教育委員会や営繕・土木部門がボトムアップで作成する個別施設計画(現場の積み上げ)の間で、連携が取れていないことが主な要因です。
各所管課は自分たちの管理する施設の維持を最優先に考えるため、どうしても要望ベースの計画になりがちです。
その結果、「全体で床面積を20%削減する」という目標があるにもかかわらず、個別の計画を足し上げると目標に届かない、あるいは逆に予算枠を大幅に超過するといった不整合が生じます。
どの施設を残し、どれを統廃合するかという経営判断を下すための材料が揃わず、議論が停滞してしまいます。
(2)固定資産台帳(公会計)との連携の不十分
施設の劣化状況などの技術情報と、減価償却累計額などの財務情報が紐付いておらず、経営判断の材料が揃っていません。
多くの自治体では、技術情報は営繕課や各所管課が管理し、財務情報は財政課が管理するというように、データが散逸しています。
一つのシステム上で統合的に管理されていないため、「この施設はあと何年使えるか(技術)」と「この施設の資産価値はいくらか(財務)」を即座に照らし合わせることができません。
令和3年 1月通知ではこの連携が強く求められています。
技術的な古さだけでなく、財務的な資産価値をセットで見なければ、多額の費用をかけて更新すべきか、あるいは売却して財源に充てるべきかといった適切な投資判断を下すことは不可能です。
データを管理し公会計と連携させる手法について、以下の記事で解説しています。
第三の壁:複雑化する要件と合意形成
第三の壁は、求められる要件の高度化とステークホルダーとの調整という「実行の壁」です。
本章では、実務担当者を悩ませる以下の2点について解説します。
- 脱炭素・ユニバーサルデザインへの対応難易度
- 住民や議会への説明責任と合意形成の難しさ
(1)脱炭素・ユニバーサルデザインへの対応
施設の更新にあたっては、単なる延命化だけでなく、ZEB化(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やバリアフリー対応など質の向上が求められています。
令和4年 4月の通知等により、政府の目標であるカーボンニュートラル実現に向けた環境配慮や、高齢化社会に対応した誰もが使いやすい施設への転換が必須要件となりつつあるためです。
これらは従来の「壊れた箇所を直す」という修繕レベルを遥かに超えた対応を必要とします。
しかし、これらを実現するには、断熱性能の計算や再生可能エネルギー設備の導入検討など、専門的な建築知識や環境対策のノウハウが必要です。
庁内のリソースだけでは具体的な仕様策定やコスト計算が難航し、結果として計画策定自体がストップしてしまう大きな要因となっています。
(2)住民や議会への説明責任
総量縮減(統廃合)を提案する際、住民や議会からの強い反発に遭い、議論が平行線になることがあります。
地域住民にとって身近な公民館や学校がなくなることは、理屈では人口減少に伴う措置だと理解できても、感情的には受け入れがたいものです。
「なぜうちの地域の施設なのか」という不満に対し、明確な回答を持たずに説得を試みても、住民や議会の十分な理解を得られないでしょう。
この壁を乗り越えるには、「なんとなく古いから」「利用者が減ったから」という定性的な説明ではなく、客観的な将来の一人あたり負担額等の財務データを提示することが不可欠です。
また、単に廃止するのではなく、PPP/PFIを活用してサービス水準を維持する代替案を示すなど、住民が納得感を持てるような対話プロセスを設計する力が問われています。
統廃合や民間活用を進めた成功事例については、以下の記事で紹介しています。
課題解決のための財務・公会計データと外部へのアウトソーシングの活用

山積する課題を解決し、計画を実行フェーズに進めるためには、新たなアプローチが必要です。
本章では、現状を打破するための有効な手段として以下の2点をご説明します。
- 財務視点で優先順位をつける重要性
- 外部専門家への戦略的なアウトソーシング
(1)財務視点で優先順位をつける
公共施設マネジメント推進の前提となる固定資産台帳(公会計)を活用し、精緻なシミュレーションを行うことが、庁内および住民との合意形成の第一歩となります。
感情論や各部署のしがらみを排し、客観的な数字(コストと効果)を共通言語にすることで、建設的な議論が可能になるからです。
「この施設を維持し続けると、将来世代にこれだけの負担増となる」という事実を、財務データ・公会計データに基づいて可視化することが重要です。
例えば、類似施設とのコスト比較(ベンチマーキング)を行い、極端にコストパフォーマンスが悪い施設を特定するなどの分析も有効です。
客観的なデータがあれば、住民や議会に対しても、「誰かが決めたこと」ではなく「自治体の未来のために必要な選択」として説明が受け入れられやすくなります。
(2)外部専門家へのアウトソーシング
庁内のリソースだけでは対応しきれない複雑な課題(脱炭素、財務分析等)については、外部専門家へのアウトソーシングが有効です。
財務会計・公会計と公共施設マネジメントの両方に精通した専門家に委託することで、高度な専門性を補完し、スピード感を持って改革を進められるからです。
特に、施設別行政コスト分析や環境性能の評価といった専門性が高い分野は、内部職員だけで抱え込むと時間がかかりすぎ、実務が停滞してしまいます。
これは単なる業務の丸投げではなく、職員がコア業務である住民対応や政策判断に集中するための賢い選択といえます。
専門家の知見を借りることで、最新の通知に対応した精度の高い計画改訂が可能になり、結果として実行力のあるマネジメント体制を構築できます。
まとめ
公共施設マネジメントの実行には、財政、建築、環境、そして合意形成といった多岐にわたる専門性が求められます。
これらすべてを自治体職員だけで解決しようとすると、どうしても限界が生じます。
壁に直面して計画が停滞している場合は、財務会計・公会計データを活用した現状分析や、専門的な知見を持つパートナーとの連携を検討してみてはいかがでしょうか。
客観的なデータと外部のノウハウを取り入れることが、課題解決への近道となります。
当社は、公会計・財務会計の専門性と、公共施設マネジメントおよび各種計画策定におけるアウトソーシングの受託実績を兼ね備え、地方自治体の皆さまをご支援しています。
財務書類の作成から、公共施設の評価・将来推計、計画策定に至るまで、一連のプロセスを一貫してサポートいたします。
まずはお気軽にご相談ください。
監修者
黒川 雅康
総務省 経営・財務マネジメント 強化事業アドバイザー
株式会社パブリック・マネジメント・コンサルティング/上席執行役員 営業部長
2008年当社入社。地方公会計制度導入、公会計システム開発・運用に携わり、
以降、自治体における財務書類作成、公共施設マネジメント等、地域・自治体の課題解決に向けた様々な支援を行う。


